約400年も前に書かれた『ハムレット』は、今日でもなお世界中で上演され続けているウィリアム・シェイクスピアの名作です。東京演劇集団風の『ハムレット』は、モルドヴァ共和国のウジェーヌ・イヨネスコ劇場との交流の中から生まれました。東ヨーロッパの小国モルドヴァと日本との初の共同制作として、2004年に初演しました。

 偉大な国王であった父の突然の死、その喪も明けぬ間の母と叔父との結婚、それを受け入れる社会。父の死が叔父の暗殺だと知ったハムレットは、そこで大人たちの争いや裏切り、権力への迎合を目の当たりにします。ハムレットは自分自身に問いかけます。「このままでいいのか、いけないのか」。彼は社会に対して、大人に対して不信感を募らせていく―そこにある問題は決して過去のものではありません。
 風の『ハムレット』は登場人物を〈子ども〉と〈大人〉という世代に分けています。ハムレット、親友のホレーシオ、恋人のオフィーリア、その兄レアティーズを〈子ども〉とし、国王クローディアス、王妃ガートルード、その家臣ポローニアスは〈大人〉です。さらに原作にはない〈子どもたち〉と〈大人たち〉も登場します。〈大人たち〉は権力に従いどんな不正義も見て見ぬふり、〈子どもたち〉は〈大人〉に翻弄されるハムレットをじっと見つめています。

 演出のペトル・ヴトカレウは、「大事なことは、『ハムレット』という作品が、若い世代のドラマとしてあるということ。若い世代は、大人の過ちやつくりだした問題によって、自分たちがどう生きていくのかという道を見失い、あるいは困難や問題解決の糸口を見つけ出せないでいる。なぜ、子供が間違った方向に行くのか、自殺をしたり、それはどうしてなのか、考えてもらいたい。利益を追求することで、子どもたちが後回しにされている。それは世界のどこでも同じ状況だと思います」と語ります。
 風の『ハムレット』は≪明日を見つめる子どもたち≫へ希望と愛、自由を伝える未来へのメッセージです。

作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:小田島雄志
演出:浅野佳成
    ペトル・ヴトカレウ
舞台美術:衣裳
ステラ・ヴレブチュアヌ