民族紛争において、女性の性は戦場となる-

 ボスニア紛争が激化、アメリカが紛争に介入し対セルビア人勢力包囲網をはじめた1994年。
 クロアチア、ボスニアの医療的欠乏に関する評価調査団のメンバーであり、クラジナ、スレブレニツァ地区の死体置場確認の任務を経験していたボストン精神医学診療所のケイト。
 ケイトはドイツのNATO医療センターで、敵軍の民族にレイプされ妊娠した紛争の犠牲者、ドラの精神治療を行っている。
 ドラの記憶と体験が語らせるバルカンの他民族への悪意、ドラを治療するためのケイトの告白、お腹の子をめぐるケイトとドラの会話……。そこに浮かび上がってくるボスニアの民族の恐怖、憎悪、暴力の根源、生への希求……。
 やがてドラは子供を産み、その子を育てると決断する……。

 ボスニア紛争は、第二次世界大戦後のヨーロッパで最悪の民族紛争とされています。
セルビア人勢力は、ボシュニャク人のセルビア人虐殺に対する報復として、スレブレニツァに侵攻。一人残らず虐殺し、残された女子に集団レイプを行い、強制収用し、出産せざるを得ない状況に追い込んだと言われています。
 そんな惨劇に着想を得つつ、実際の証言を取り入れて1996年の年末に書かれた『戦場のような女』。
 風はルーマニア出身のフランス現代作家マテイ・ヴィスニユックを特集した《ビエンナーレKAZE国際演劇祭2009》で本邦初演。作者マテイ・ヴィスニユックが〈ビエンナーレKAZE国際演劇祭〉のために上演を提案した作品であり、『フランクフルトに恋人がいるサックス奏者が語るパンダの物語』に続く風のレパートリーとなっています。

作:マテイ・ヴィスニユック
訳:川口覚子
演出:江原早哉香
音楽:八幡茂
舞台美術:高田一朗
照明:フランソワ・シャファン
演出協力:佐藤薫