誘拐犯の夫婦と、拉致監禁された老人が織りなすトラジ・コメディー(悲喜劇)

 仕事がなく、電気も止められ、極貧生活を過ごしている夫婦が苦肉の策で思いたったのは、テレビ番組で多額の賞金を手にした老人の誘拐。ところが実行したものの老人は強気で、なかなか金の在処を白状してくれない。後悔の念に揺れつつも、なんとかして白状させたい夫婦と、強気で頑固な老人との長く執拗な闘いが繰り広げられる。
極限状態に追い込まれた夫は、ついに狂気に転じてしまうが、そこに待ち受けるのはとんでもない真実……。
 その展開と最後に起こるドンデン返しはユーモアにあふれ、貧困の中に生まれた作者アメド・マダニの鋭い社会への考察と、都市に生きる弱者に対する温かい眼差しに裏打ちされている。
 作者のアメド・マダニは1952年、アルジェリア生まれ。フランスで地方の演劇センターや劇場で活躍している気鋭の劇作家・演出家。
 『ラプト』は1993年、フランス北部にあるマキシム・ゴーリキー劇場で初演され、1995年にパリのカルトゥシュリー(弾薬庫跡)にあるタンペット劇場で上演されました。
 その公演を観劇した芸術監督 浅野佳成が帰国後、堀内ゆかり氏に翻訳を依頼し、和田喜夫の演出により2000年にレパートリーシアターKAZEで本邦初演した作品です。

作:アメド・マダニ
訳:堀内ゆかり
演出:和田喜夫